2026/10/26
相続分の譲渡
2026/10/26
相続分の譲渡
こんにちは、行政書士・宅地建物取引士の長田(おさだ)です。
相続のご相談では、「自分は遺産を受け取らなくてもよいので、兄に自分の取り分を譲りたい」「相続人同士の話し合いに参加するのが難しいため、相続分を誰かに譲ることはできますか」といったお話が出ることがあります。
相続が発生すると、相続人は遺産をどのように分けるか話し合うことになります。しかし、すべての相続人が遺産の取得を希望するとは限りません。そのような場合に検討できる方法の一つが、「相続分の譲渡」です。
相続分の譲渡は、特定の相続人に自分の相続分を譲り渡すことができる便利な仕組みですが、相続放棄とは異なる点も多く、注意が必要です。
今回は、相続分の譲渡とは何か、どのような場面で利用できるのか、手続きや注意点についてお話いたします。
相続分の譲渡とは?
相続分の譲渡とは、相続人が持っている遺産全体に対する割合的な持分を、ほかの相続人や第三者に譲り渡すことです。
ここでいう「相続分」は、特定の不動産や預貯金だけを指すのではありません。プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めた、遺産全体に対する持分を意味します。
具体例
例えば、父が亡くなり、相続人が母と長男、長女の3人だったとします。法定相続分は、母が2分の1、長男と長女がそれぞれ4分の1です。
長男が「自分は遺産を受け取らなくてもよいので、長女に自分の相続分を譲りたい」と考えた場合、長男の相続分を長女に譲渡することができます。
長男が相続分の全部を長女に譲渡すると、長女は自分がもともと持っていた相続分に加えて、長男から譲り受けた相続分も取得することになります。
このように、相続分の譲渡は、特定の相続人に相続分を集約したい場合などに利用できる方法です。
相続分は誰に譲渡できる?
相続分の譲渡先は、ほかの相続人に限られません。相続とは関係のない第三者に譲渡することも可能です。
また、相続分の全部だけでなく、一部を譲渡することもできます。
譲渡の方法には、主に次の2つがあります。
・有償譲渡:対価を受け取って相続分を譲り渡す方法
・無償譲渡:対価を受け取らずに相続分を譲り渡す方法
例えば、相続人の一人が早期に現金を受け取りたい場合には、有償で相続分を譲渡することが考えられます。また、親の介護などを担ってくれた兄弟姉妹に多くの財産を取得してもらいたい場合には、無償で相続分を譲渡することも考えられます。
ただし、無償で譲渡する場合は贈与税、有償で譲渡する場合は所得税などの税務上の問題が生じることがあります。譲渡先や対価の有無、当事者の関係などによって取扱いが異なるため、事前に確認しておくことが大切です。
相続分の譲渡と相続放棄の違い
「遺産はいらない」という場合、相続分の譲渡と相続放棄のどちらを選べばよいのでしょうか。
どちらも遺産を取得しないために検討されることがありますが、法律上の効果は大きく異なります。
相続放棄は、家庭裁判所で行う手続き
相続放棄をすると、法律上、初めから相続人ではなかったものとみなされます。原則として、亡くなった方の財産を相続しないだけでなく、借金などのマイナスの財産も引き継ぎません。
相続放棄をするには、原則として、自分のために相続が開始したことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。
相続分の譲渡は、譲渡する相手を指定できる
一方、相続分の譲渡は、譲渡する人と譲り受ける人との合意によって行うことができます。通常は、相続分譲渡契約書などの書面を作成して手続きを進めます。
相続放棄とは異なり、自分の相続分を特定の相続人や第三者に譲り渡せる点が特徴です。また、相続分の譲渡には、相続放棄のような一律の3か月という期限はありません。ただし、遺産分割が終了する前に行うことが基本となります。
注意したいのは、相続分を譲渡しても、亡くなった方の借金などについて、債権者との関係で支払い義務がなくなるとは限らないという点です。相続分の譲渡によって、相続人としての地位や債務に関する責任が、相続放棄と同じように消えるわけではありません。
借金がある場合や、財産と負債のどちらが多いかわからない場合には、安易に相続分を譲渡せず、相続放棄も含めて慎重に検討しましょう。
相続分の譲渡はどのように進める?
相続分の譲渡は、一般的に次のような流れで進めます。
① 譲渡する相手と条件を決める
誰に譲渡するのか、相続分の全部か一部か、有償か無償かなどを決めます。後々の誤解を防ぐため、対価を支払う場合は金額や支払時期も明確にしておきましょう。
② 相続分譲渡契約書などを作成する
譲渡する人と譲り受ける人との間で合意し、その内容を書面に残します。相続分譲渡契約書や相続分譲渡証書を作成し、対象となる相続や譲渡する範囲を明確にしておくことが大切です。
③ 遺産分割などの手続きを進める
相続分を譲り受けた人は、その相続分に応じて遺産分割手続きに関わることになります。家庭裁判所で遺産分割調停を行っている場合などは、裁判所に提出する書類や当事者の扱いについて確認が必要です。
なお、相続分の譲渡によって個々の財産の名義変更がすべて完了するわけではありません。最終的な遺産分割や不動産の相続登記など、それぞれの財産に応じた手続きが必要になります。
相続分を譲渡するときの注意点
相続分の譲渡を検討する際は、次の点を確認しておきましょう。
・借金や保証債務の有無:譲渡後も債権者との関係で責任が残る可能性があります。
・税金の取扱い:無償・有償の別や譲渡先などによって、贈与税や所得税などが問題となることがあります。
・第三者への譲渡:第三者が遺産分割に関与する可能性があり、ほかの相続人との関係にも影響します。
・書面の作成:譲渡する相続や範囲、対価などを明確にし、合意内容を証拠として残しておくことが大切です。
・遺産分割の進行状況:遺産分割が終了している場合は、相続分の譲渡ではなく、確定した財産を贈与・売買するなど別の手続きが必要となることがあります。
相続分の譲渡は、相続人同士の話し合いを整理するうえで役立つことがありますが、すべてのケースに適しているわけではありません。相続人の関係や財産の内容、負債の有無などを確認したうえで、適切な方法を選ぶことが重要です。
行政書士法人エニシアでは、戸籍の収集や相続人の調査、相続関係の整理、遺産手続きに必要な書類の作成などをサポートしています。相続分の譲渡を検討されている方にも、状況に応じて必要な手続きを整理し、弁護士や司法書士、税理士などの専門家と連携しながら対応いたします。
どうぞお気軽にご相談ください。
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