2026/10/29
父の相続と母の認知症|前編
2026/10/29
父の相続と母の認知症|前編
こんにちは、行政書士・宅地建物取引士の長田(おさだ)です。
「父が亡くなりましたが、母は認知症です。父の預貯金や自宅の相続手続きは、どう進めればよいのでしょうか?」
相続のときにこのような壁に直面することは、決して珍しいことではありません。
父が亡くなった場合、母が存命であれば、通常は母も相続人になります。しかし、母の認知症が進み、遺産分割の内容を理解して自分の意思を示すことが難しくなっていると、相続手続きが思うように進まないことがあります。
今回は、父が亡くなり、母に認知症がある場合の相続手続きについて、成年後見制度の利用や手続きを保留する場合の注意点のついてお話しします。
母が認知症でも、相続人であることは変わらない
父が亡くなった場合、相続人は、原則として配偶者である母と子どもです。例えば、相続人が母と子ども2人であれば、法定相続分は母が2分の1、子どもがそれぞれ4分の1となります。
母が認知症であっても、それだけで相続権を失うわけではありません。母が相続人である以上、遺産分割をする場合には、母も含めた相続人全員が関わる必要があります。
例えば、子どもたちが「母は認知症だから、父の財産は兄弟で分けてしまおう」と考えても、母を除外して自由に遺産分割を進めることはできません。
また、子どもが母の代わりに遺産分割協議書へ署名したり、母の意思を確認せずに手続きを進めたりすることも避けなければなりません。
認知症の母は遺産分割協議に参加できる?
認知症と診断されている場合でも、すべての法律行為ができなくなるわけではありません。重要なのは、母がその時点で、遺産分割の内容や結果を理解し、自分の意思で判断できる状態にあるかどうかです。
遺産分割協議では、誰がどの財産を取得するのか、取得する財産にどのような価値があるのかなどを理解したうえで、合意する必要があります。
母が内容を理解して判断できる状態であれば、認知症の診断を受けていても、本人が協議に参加できる場合があります。
一方、認知症の影響で、遺産分割の内容や結果を理解することが難しい場合には、母自身が有効な合意をすることができません。そのような場合には、成年後見制度の利用を検討することになります。
判断が難しいときは、家族だけで決めつけず、医師や弁護士などの専門家に相談しながら、適切な対応を検討することが大切です。
方法① 成年後見制度を利用する
母が遺産分割の内容を理解して判断することが難しい場合、相続手続きを進めるための方法の一つが、成年後見制度です。
成年後見は、判断能力が不十分な方の権利や財産を保護するための制度です。家庭裁判所に申立てを行い、必要な支援をする人を選任してもらいます。
選任された成年後見人などは、本人の利益を守りながら、法律で認められた範囲で財産管理や契約などを支援します。母の代理人として遺産分割協議に関わることができれば、相続手続きを進められる場合があります。
成年後見制度を利用するときの注意点
成年後見は、単に父の相続手続きを済ませるためだけの制度ではありません。母自身の生活や財産を守るために、継続的な支援が必要かどうかも踏まえて検討する必要があります。
また、成年後見人には、親族が選ばれる場合もあれば、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれる場合もあります。また、申立ての際に候補者を挙げることはできますが、希望した人が必ず選任されるわけではありません。
成年後見人などが選任された場合、本人の利益を守ることが最優先となります。そのため、子どもたちの希望どおりに遺産を分けられるとは限りません。母の取り分を確保する必要があり、家族が考えていた分け方がそのまま認められないこともあります。
さらに、専門職の後見人などが選任された場合には、原則報酬が発生することになります。制度を利用するかどうかは、父の相続だけでなく、母の今後の生活や財産管理も含めて検討しましょう。
方法② 遺産分割を急がず、いったん保留する
父の相続が発生しても、必ずしも直ちに遺産分割協議を成立させなければならないとは限りません。母の判断能力や家族の状況によっては、遺産分割をいったん保留することも選択肢の一つです。
例えば、父の遺産をすぐに分ける必要がなく、母の生活費なども確保できている場合には、当面は遺産分割を行わず、状況を見ながら今後の対応を検討することが考えられます。
ただし、保留にすればすべての問題が解決するわけではありません。
遺産分割が終わっていない間は、相続財産が共有状態となることがあり、不動産の売却などが簡単に進められない場合があります。また、預貯金の解約や名義変更なども、遺産分割協議を行わないままでは手続きが限られることがあります。
母の生活費や介護費用を父の財産から支出する必要がある場合には、どのように対応できるかを金融機関などに確認しておきましょう。
相続税の申告期限にも注意
父の遺産について相続税の申告が必要な場合、遺産分割が終わっていなくても、原則として、父が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に申告と納税を行う必要があります。
遺産分割が成立していない場合には、法定相続分などに基づいて計算した相続税をいったん申告することになります。また、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などは、適用要件や申告時の手続きに注意が必要です。
「母の状態が落ち着くまで相続手続きを保留しよう」と考える場合でも、相続税の申告期限や不動産の管理など、別に対応すべき事項がないか確認することが大切です。
母が亡くなった後に、改めて相続することになる場合も
父の遺産分割を保留したまま母も亡くなった場合、父の相続と母の相続という、2つの相続を整理する必要が生じることがあります。
例えば、父の遺産を分けないまま母が亡くなり、相続人が子どもたちだけになったとします。この場合、子どもたちは、父から直接相続する権利と、母が父の相続について持っていた権利を引き継ぐことになる場合があります。
ただし、実際にどのような権利を引き継ぐかは、父の相続関係や母の相続関係、遺言書の有無などによって異なります。
また、父の相続税申告と母の相続税申告は、それぞれ別に検討する必要があります。遺産分割を保留する場合には、将来の手続きが複雑になる可能性も踏まえておきましょう。
父の相続と母の今後を一緒に考える
父が亡くなり、母に認知症がある場合、母が相続人であることに変わりはありません。母が遺産分割の内容を理解して判断できるかどうかによって、手続きの進め方が変わります。
母が判断することが難しい場合には、成年後見制度を利用する方法や、事情に応じて遺産分割を保留する方法などを検討します。ただし、相続税の申告期限や預貯金、不動産の管理など、確認すべき事項もあります。
そして、父の相続だけでなく、母の生活や今後の財産管理まで考えることが大切です。
行政書士法人エニシアでは、戸籍の収集や相続人の調査、相続関係の整理、遺産手続きに必要な書類の作成などをサポートしています。成年後見制度の利用や法的な判断が必要となる場合には、弁護士や司法書士などの専門家と連携しながら、状況に応じた対応をご案内します。
どうぞお気軽にご相談ください。
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