2026/11/02
空き家の管理義務と相続放棄
2026/11/02
空き家の管理義務と相続放棄
こんにちは、行政書士・宅地建物取引士の長田(おさだ)です。
親が亡くなり、実家を相続することになったものの、「自分は遠方に住んでいて管理できない」「古い家で住む予定もなく、売却も難しそう」「固定資産税や維持費の負担を考えると、相続したくない」と悩まれる方は少なくありません。
そのような場合に検討される選択肢のひとつが相続放棄です。しかし、相続放棄をすれば、実家の空き家についても一切関係がなくなるのでしょうか。
実は、相続放棄をした人であっても、一定の場合には空き家を保存する義務が残ることがあります。
今回は、相続放棄と空き家の管理義務について、民法改正の内容も踏まえてお話しいたします。
相続放棄をすると、空き家はどうなる?
相続放棄とは、亡くなった方の財産や借金など一切を引き継がないようにするために、家庭裁判所で行う手続きです。
相続放棄が受理されると、その人は初めから相続人ではなかったものとみなされます。そのため、実家の土地や建物を相続することもなく、原則として、相続によって生じる固定資産税の負担も引き継ぎません。
ただし、ここで注意したいのは、相続放棄をしても、空き家そのものがなくなるわけではないということです。
不動産を相続する人がいなくなった場合でも、建物や土地はそのまま残ります。相続人が複数いる場合には、相続放棄をした人以外の相続人が引き継ぐことがあります。また、先順位の相続人が全員放棄すると、次順位の人が相続人になる場合もあります。
例えば、父親が亡くなり、子ども全員が相続放棄をした場合、父親の両親が存命であれば、次に相続人となる可能性があります。父親の両親も既に亡くなっている場合などには、兄弟姉妹が相続人となることもあります。
民法改正(2023年4月)で管理義務はどう変わった?
相続放棄後の空き家の管理については、2023年4月1日に施行された改正民法によって、ルールが変更されました。
改正前は、相続放棄をしても管理義務が残ることがあった
改正前の民法では、相続放棄をした人は、次の相続人が相続財産の管理を始められるようになるまで、相続財産の管理を継続しなければならないとされていました。
そのため、例えば、親と同居していた子どもが相続放棄をした場合だけでなく、相続放棄をした人が実際にはその不動産を管理していない場合でも、管理義務の範囲が問題となることがありました。
特に、相続人全員が相続放棄をしたようなケースでは、誰がいつまで管理するのかが分かりにくく、負担が長期間続くことも懸念されていました。
改正後は「現に占有している場合」に限定
2023年4月1日以降の民法940条第1項では、相続放棄をした人が保存義務を負うのは、相続放棄をした時点で、相続財産に属する財産を現に占有している場合に限られることになりました。
具体的には、次のように定められています。
「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」
つまり、相続放棄をした人が、放棄した時点でその空き家を現に占有していなければ、原則として、この民法940条による保存義務は負いません。
例えば、親が亡くなった後、遠方に住んでいる子どもが実家を相続することになったものの、長年実家に住んでおらず、建物を使用したり管理したりしていないような場合には、相続放棄後の保存義務を負わない可能性があると言えます。
「現に占有している」とは、どのような状態?
では、どのような場合に「現に占有している」と判断されるのでしょうか。
例えば、次のようなケースでは、現に占有していると判断される可能性があります。
・亡くなった親と同居しており、そのまま実家に住んでいる
・相続開始後も実家を生活の拠点として使用している
・実家に自分の家財道具などを置き、継続的に使用・管理している
一方で、次のような事情だけで、直ちに「現に占有している」と判断されるわけではありません。
・実家が自分の住所地から遠く離れている
・親が亡くなる前に一時的に実家へ帰省していた
・実家の鍵を保管している
もっとも、占有に当たるかどうかは、鍵の保管状況、建物への出入り、家財の保管状況、実際の使用状況など、具体的な事情を踏まえて判断されます。鍵を持っているだけなら必ず占有に当たらない、というように単純に決められるものではありません。
相続放棄を検討している場合には、現在の住まいや実家との関わり方を整理しておくことが大切です。
保存義務がある場合、どこまで対応すればよい?
民法改正では、相続放棄をした人が負う義務について、従来の「管理」ではなく「保存」という言葉が使われています。
これは、空き家を積極的に活用したり、価値を高めたりすることまで求めるものではなく、財産を滅失させたり、損傷させたりしないようにすることを基本とするものです。
空き家をリフォームしたり、定期的に清掃したり、庭木を剪定したりすることなど、積極的な管理全般を当然に求める規定ではありません。
例えば、建物を占有している人が相続放棄をした場合には、引き渡しまでの間、状況に応じて次のような対応が必要になることが考えられます。
・不必要な立入りや侵入を防ぐための戸締まり
・建物の状態を確認し、重大な損傷や危険を放置しないこと
・雨漏りや破損など、建物の状態を著しく悪化させるおそれがある問題への対応
※ただし、具体的にどのような対応が必要となるかは、建物の状態や周囲の状況などによって異なります。
保存義務はいつまで続く?
民法940条による保存義務は、相続放棄をした人が、その財産を次の相続人または相続財産清算人に引き渡すまで続きます。
相続放棄をした後、別の相続人がその不動産を引き継ぐ場合には、その人に引き渡すことになります。
※相続人全員が相続放棄をするなどして相続人がいなくなった場合には、原則、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てることが必要になります。
相続財産清算人とは?
相続財産清算人とは、相続人がいることが明らかでない場合などに、家庭裁判所によって選任され、亡くなった方の財産を管理・清算する人です。
相続財産清算人は、相続財産を調査し、債権者への支払いなどを行い、残った財産があれば、法律に従って国庫に帰属させる手続きを進めます。
相続財産清算人の選任は、利害関係人などが、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。相続放棄をした人であっても、保存義務を負っている場合には、利害関係人として申立ての検討が必要になることがあります。
相続放棄をすれば、空き家の問題がすべて解決するわけではない
ここまで解説したように、2023年4月以降は、相続放棄をした人が空き家の保存義務を負う範囲が限定されました。
しかし、相続放棄をすれば、空き家に関する問題がすべて解決するわけではありません。
例えば、相続人全員が相続放棄をした場合でも、建物は残り続けます。相続財産清算人が選任されなければ、空き家の処分や清算がすぐに進むとは限りません。
また、相続放棄をする前に、故人の預貯金を使ったり、相続財産を処分したりすると、行為の内容によっては単純承認とみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。空き家の片付けや家財道具の処分などについても、どこまで行ってよいか慎重な判断が必要です。
さらに、相続放棄には原則として、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内という期限があります。
※財産や借金の状況が分からない場合には、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることも検討できます。
相続放棄をするかどうかは、空き家の状態だけでなく、預貯金や借金など、相続財産全体を確認したうえで判断することが重要です。
空き家を相続したくない場合は、早めに相談を
親が亡くなり、誰も住む予定のない実家が残された場合、相続放棄をすることが適切なケースもあれば、相続したうえで売却や活用を検討した方がよいケースもあります。
また、相続放棄を検討する場合には、次のような点を確認しておく必要があります。
・相続人は誰になるのか、次順位の相続人がいるのか
・不動産のほかに預貯金や借金などがあるのか
・相続放棄をする人が、現在その空き家を占有しているのか
・相続放棄後、空き家を誰に引き渡すことになるのか
・相続財産清算人の選任が必要となる可能性があるのか
特に、相続放棄には期限があり、放棄した後に撤回することも原則としてできません。空き家の管理が負担だからという理由だけで急いで判断するのではなく、相続財産全体と今後の対応を整理することが大切です。
行政書士法人エニシアでは、相続人の調査や相続財産の整理、相続手続きに関するご相談など、グループ不動産会社との協働や、司法書士や弁護士とも連携し状況に合わせて丁寧にサポートしています。
空き家を相続することになりそうな方、相続放棄を検討されている方は、まずは現在の状況を整理するところから始めてみませんか。
どうぞお気軽にご相談ください。
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