2026/07/10
遺言執行って代わりにやってもらえるの? ~復任権~
2026/07/10
遺言執行って代わりにやってもらえるの? ~復任権~
こんにちは、行政書士・宅地建物取引士の長田(おさだ)です。
遺言書を作成する際に「遺言執行者」を指定することの重要性は、これまでのBlog記事でもお伝えしてきました。
しかし、相続の仕事をしていると次のような質問もとても多くいただきます。
「遺言執行者が忙しくて手続きができない場合、誰かに代わりにやってもらえるの?」
「家族が代わりに銀行に行っても問題ない?」
今回は、遺言執行者がどこまで他人に任せられるのか、どこからが任せられないのか、そして実際に起こりやすいトラブルまで、お話ししたいと思います。
遺言執行者は「遺言の内容を実現する責任者」
遺言執行者は、遺言書に書かれた内容を実現するための手続きを行う人です。
不動産の名義変更、預貯金の解約、財産の引き渡しなど、相続人の代わりに手続きを進める強い権限を持っています。
これは民法上、遺言執行者が「遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と定められていることに基づいています。
つまり、遺言執行者は遺言者から直接選ばれた“責任者”であり、遺言者の意思を最後まで形にする役割を担っているのです。
遺言執行者は「原則として自分で行う」のが基本
遺言執行者は、遺言の内容を自らの責任で実行する必要があります。
これは、遺言者が「この人なら信頼できる」と思って任せたからこそ成立する制度だからです。
そのため、遺言執行者が勝手に他人へ丸投げすることや、全部を別の人に任せて自分は何もしないということは原則として認められません。
遺言執行者本人が主体となって進めることが重要です。
では、復任権とは?
とはいえ、どんな場合でも遺言執行者本人が必ず全てを行わなければならないかというと、そうではありません。遺言執行者も誰かに依頼する権利があるのです(これを「復任権」といいます)。
ところで、この遺言執行者の復任権は、2019年7月1日の民法改正で大きく変わりました。
この民法改正前は「原則として復任は禁止」という扱いでしたが、現在は復任が原則として認められる制度に変わっています。
● 改正前(〜2019年6月30日)
遺言執行者は、原則として他人に任務を任せることができませんでした。復任が認められるのは「やむを得ない事由」がある場合、または遺言書に復任を許す旨が書かれている場合に限られていました。
● 改正後(2019年7月1日〜)
現在の民法では、遺言執行者は自己の責任で第三者に任務を行わせることができる(=復任が原則許容)と明確に規定されています。遺言者が「復任を禁止する」と遺言書に書いていない限り、必要に応じて他人へ事務を委ねることができます。
● どちらの制度が適用されるかは「遺言書の作成日」で決まる
復任権の扱いは、相続開始日(死亡日)ではなく遺言書を作成した日付で判断されます。
・2019年6月30日以前に作成された遺言書 → 旧法(復任原則禁止)
・2019年7月1日以降に作成された遺言書 → 新法(復任原則許容)
そのため、遺言執行者として手続きを進める際(特に、遺言執行者が誰かに手続の代行を依頼したい場合)には、まず遺言書の作成日を確認することが非常に重要です。
復任できること・できないこと
復任が原則許容となった現在でも、任せられる範囲には明確な線引きがあります。復任できるのは「事務的・補助的な行為」であり、遺言の内容に関する判断や権限行使は遺言執行者本人が行う必要があります。
● 復任できること(補助的な事務)
・戸籍・住民票・登記事項証明書などの書類収集
・銀行や法務局への提出書類の作成補助
・不動産登記を司法書士に依頼すること
・税務申告を税理士に依頼すること
・現地調査や財産の確認
・不動産売却の実務部分(不動産会社への依頼など)
● 復任できないこと(遺言の核心部分)
・遺言の解釈を他人に丸投げすること
・財産の分配方法を他人に決めさせること
・遺言執行者の名義で行うべき手続きを完全に他人へ任せること
・遺言執行者本人の署名・押印を他人が代わりに行うこと
復任が自由になったとはいえ、遺言の実現に関する「判断」や「意思決定」は遺言執行者本人が行う必要があるのです。
家族が代わりに銀行へ行くのは?
遺言執行者が家族に「銀行へ行って書類を提出してきて」と頼むケースがあります。
これは銀行が認める範囲であれば事実上は可能です。
ただし、解約の最終判断や払戻しの指示、名義変更の申請など、遺言執行者本人の権限行使が必要な場面は家族が代わりに行うことはできません。
また、銀行によっては「遺言執行者本人の来店が必須」という場合もあります。
復任した場合の責任は誰が負う?
遺言執行者は、復任した者の選任および監督について責任を負います。
つまり、復任した第三者が不適切な処理をした場合や、遺言執行者が監督を怠った場合には、遺言執行者本人が責任を問われることになり、「任せたから自分は知らない」ということは認められません。
復任が自由になったからこそ、遺言執行者には選任の慎重さと監督の丁寧さがより強く求められるようになったと言えます。
復任をめぐるトラブル
実際の現場では、次のようなトラブルが起こりがちです。
・遺言執行者が高齢で事務が進まない
・家族が勝手に手続きを進めてしまい、銀行や法務局で止められる
・遺言執行者が多忙で手続きが長期化する
・相続人が「遺言執行者が何もしていない」と不満を抱く
これらは復任権の理解不足が原因で起こることも多くあります。
遺言書に「復任を許す」旨を書いておくと安心
民法改正後は復任が原則許容となりましたが、遺言者が「復任を禁止する」旨を遺言書に記載することもできます。遺言者の意思が最優先されるため、遺言書に禁止の記載がある場合は復任できません。
そのため、財産が多い場合や不動産が複数ある場合、事業をしている場合、遠方に住んでいる場合などは、遺言書に「遺言執行者は必要に応じて復任することができる」とあえて明記しておくと、遺言を読むことになる相続人や関係者にも一見してわかりやすく、手続きも非常にスムーズになります。
復任権は「便利な制度」だが、万能ではない
復任権は、遺言執行者が他人の力を借りて事務を進められる便利な制度です。
しかし、遺言の核心部分は任せられない、最終責任は遺言執行者本人、任せ方を誤るとトラブルになるという重要なポイントがあります。
遺言は「書けば終わり」ではなく、実現できてこそ意味があります。
そのためには、復任権の理解を理解したうえで遺言執行者の選んでおくなど、遺言書への記載内容を丁寧に整えておくことが大切です。
行政書士法人エニシアでは、遺言書の作成、遺言執行者の選定、相続対策の見直しまで、あなたのご家族の状況に合わせて丁寧にサポートしています。
もし心配がおありでしたら、ぜひ私たちにご相談ください。
▶ 生前対策
▶ 遺産手続














